柱谷




 舞台中央に男が仰向けに倒れている。AとB、上手から歩いてくる。

A で、あのときはみんなで爆笑したよ。
B その柱谷ってやつ、相当おもしろいんだな。(倒れている男を発見)……あれ? なんか人が……。
A 本当だ。あ、血も出てる。
B おいおい、事件だよ、これ。やばいって。
A ……待てよ。これ、柱谷じゃないか?
B あの柱谷? さっき言ってたやつ?
A なんかあいつに似てるんだよ。
B わっはっはっは(爆笑)
A え?
B 柱谷っておもしろいやつなんだろ? 一応笑っとかないと。
A 今は違うだろ。
B ……で、この人、本当にその柱谷なの?
A 似てるには似てるんだけど。(男に)おーい、柱谷ー?
B 反応ないよ。違うんじゃない?
A そうかなぁ。あ、柱谷なら、なんかネタ振ればやってくれるはずだ。あいつ、ノリいいから。
B じゃあ、なんか言ってみてよ。
A (男に)おい、柱谷、「モーグル」やってくれよ。俺、好きなんだよ、あれ。

    反応なし
B ぎゃはははは(爆笑)
A え?
B こいつの顔おもしれー。
A 顔は……、確かにおもしろいけどさ。もう慣れたよ。昔から見てるから。
B 柱谷なんじゃない? おもしろいよ。
A 顔が、だろ? おもしろい顔の別のやつかもしれない。
B っていうか、なんでお前わかんないんだよ。知り合いだったら見ればわかるだろ。
A 似てはいるんだけどさ、あいつがこんなところにいることが考えられないんだよ。俺を訪ねて来たとも思えないし。知らないもん、あいつ、俺の居場所。
B なあ、柱谷ってどんなやつだったんだ? 他に特徴とかないの?
A うーん。……そうだ。なんかいつも納豆みたいなニオイがしてたよ。あいつ、納豆好きだったから。
B ちょっとかいでみるわ。……あ、なんか変なニオイするよ。
A どれどれ。……本当だ。
B だろ?
A 納豆っていうか、なんか本当に腐ってるって感じだ。
B 死臭ってやつかな?
A ああ、それかもな。
B で、こいつ、柱谷なの?
A うーん。ニオイは近いんだけど、強烈過ぎるな。俺の知らない間にこんな風になったんなら柱谷に間違いないんだけど。
B ……あ、ポケットになんか入ってるよ。(男のポケットから取り出す)財布だ。
A 免許書とかあるんじゃない? 見てみろって。
B (財布を探る)……あ、あった。がはははは(爆笑)
A え? 何?
B この写真の顔、おもしれー。
A 顔はもういいよ。貸してみ。
B 俺だめだ。この顔に弱い。(免許証を渡す)
A えーと、名前は、……山本だって。
B えー? じゃあ、この人、柱谷じゃなかったってことだね。こんなにおもしろいのに。
A おもしろいかどうかは別として、柱谷ではないな。
B なーんだ。つまんないの。
A もう行こうぜ。時間の無駄だったよ。(AとB、下手に歩き出す)
B 柱谷って人に会いたかったなぁ。

    暗転。



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