『グリーンフィンガーズ』という映画を見た。
それはある刑務所の囚人たちがガーデニングを始める話である。所長の指示で初めのうちは嫌々ながらだったが、彼らはすぐにガーデニングの喜びに浸っていき、やがて有名なコンテストに参加することになる。グリーンフィンガーとは天才庭師という意味である。
この映画を見終わった後にはきっと誰もが花を育てたい気持ちになっているだろう。彼らの植物の世話をする姿と、それに応えるように咲くきれいな花に誰もが胸を打たれるに違いない。
僕は以前、これと全く逆の行為をしたことがある。
中学一年か二年の春のこと。僕は学校に向かっているところだった。
通い慣れた道を歩いていると、何かが路上に落ちているのが見えた。見た感じ薬局に売っていそうな雰囲気だ。
近づいて見てみると、その正体がそこに書かれてあった。
「アンメルツヨコヨコ」
手にとってみると、まだほとんど使われていないようで、中身はたっぷりと入っていることがわかった。
僕はそれを握り締めたまま歩き出していた。そう安易に手放したくはない代物だった。
少し歩いた頃、道端にチューリップ畑を見つけた。そこには30本あまりのチューリップが咲き乱れていた。
ふと、自分の手を見つめる。そこにはさっき拾ったばかりの薬品めいたもの。
僕は一つの好奇心に駆られた。
──水の代わりにこれをかけてみたい。
気の赴くままに僕は一本のチューリップの根元に液体をたっぷりと与え、それから何事もなかったようにその場を去った。
次の日、その場を通ると、生き生きと太陽に向かって背を伸ばすチューリップたちの中で、挫折したように完全に枯れきったものが一本だけあった。
道端には薬局に売っていそうな雰囲気の容器が素知らぬ顔をして転がっていた。