自動車学校に通っていた頃のことだ。その時の僕はまだ場内教習の段階で、運転にも不慣れだった。コツが掴めていないというところだろうか。
その日は、教官にカーブの曲がり方がぎこちないと指摘された。教習所内をぐるぐる回っているのだが、あまりスムーズに曲がれているとは言い難い。道路に沿って走れてはいるが、どこか不安定な走行なのだ。
それを諭そうと思ったのか、隣に座っている教官が真面目な顔でこう言った。
「カーブっていうのは、もっとこう、シュールに曲がるんだよ」
シュールな曲がり方。どんな曲がり方だ。それを僕は知らなかった。しかし、教官は依然として真剣な顔つきだ。もしかしたら、横転しながら曲がるのがシュールなのかもしれないし、ガソリンに火を付けながら曲がるのがそれなのかもしれない。カーブの手前で火星にワープしてから曲がるのが教官の望むところなのかもしれない。だが、シュールな曲がり方について僕はあまりにも無知だった。仕方なく僕は、教官のそのアドバイスを生かすことができずに、そのまま教習所内を回っているしかなかった。
それから数ヶ月後、僕は自動車学校を卒業した。シュールな曲がり方は身に付けないままだ。学科試験においてもシュールな曲がり方についての記述は見当たらなかったし、街で自動車が走っているのを見かけても、シュールな曲がり方をしているらしい車にはいまだに遭遇したことはない。
どうやら、自動車を普段運転する際には、シュールな曲がり方は必要ないとみなして良さそうだ。しかし、そんな曲がり方があるのなら、一度は見てみたいと思うのだ。