雪が降った。初雪だ。一面に白銀の世界というほどでもなく、ところどころに雪化粧といった具合である。
真っ白な雪。白いといえばご飯である。
僕はかつて白くないご飯を見たことがある。
まぜご飯や赤飯といった類のことではない。白くなくてはならないものが白くなかったのだ。
中学三年の頃のこと。教室には誰も使っていない机が一台、一番後ろにあった。
ある夏に近い日、給食が片付けられ、もう五時間目開始のチャイムが鳴ろうかとしている頃、その机に目を向けてみるとそこにはお椀に盛られた給食のご飯が一つ置かれていた。普段はその机には何も乗っていることなどないので余計に目を引いた。
もうすぐ教師が来る、そうなったらそのご飯のことを指摘されるに違いない、そう思ったのだろう、その近くにいた一人の生徒がとっさの判断でご飯をその机の中に入れた。暗闇の中に隠したのだ。
とりあえずそれでその場は乗り切った。
そして、その些細な出来事が人々の頭の中から消えていくのに時間はかからなかった。翌日それを気にかけたものなど殆どいなかっただろう。
それからしばらく経った頃、担任が教室の整理をすると言い出した。それに伴って皆の机もチェックもするという。
担任は前の列から順に机の中を見ていった。皆は自分の机の整理をしていたが、担任の姿が中ほどに差し掛かった辺りで何かに気付き始めた。
皆の意識はあの誰もいない机に向けられていた。
担任がその机に近づいていく。
皆の頭にはあの数週間前の出来事が甦りつつあった。
あのとき、あの机に何が起こったか。机の上に何かが置かれてはいなかっただろうか。そしてそれはどこかへ姿を消したのではなかったか──。
その机の横を通った担任は、ふとその空席が気になったのだろう。そして、その中を見ておく必要に駆られたに違いない。おもむろにその中を覗いた。
皆が息を飲んだ。誰もが忘れていた封印が解かれようとしている。
担任は何かを見つけたのか、興奮気味に声をあげ、机の中に手を伸ばした。
クラス中の視線が注がれる。
机から出されたその手には、まるで見違える姿の、黴に彩られた濃い緑色のご飯があった。
あまりの変貌ぶりに皆の緊張が解き放たれて爆笑に変わった。