独り言の革命

 独り言とは、読んで字のごとく、誰に聞かせる目的もなく、自己完結した世界内で発せられた言葉ことである。「独り言をよく発する人」と「独り言など全く発しない人」、この二種類に人は分けられる、などということを述べるつもりは毛頭ないが、「独り言をよく発する人」というものが存在するのは確かである。

 そしてその独り言には意味が込められているわけではない。聞かせる対象がいないのだし、かといって自分のために言葉を発しているとも思えないからである。つまり、独り言とは全く価値のない発言であるという結論に達するのが妥当というところだろうか。

 しかし、次に挙げるエピソードがその結論に疑問符を打ち付けるのである。

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 友人の話だ。彼は突然パスタが食べたくなったのだという。

「あ、パスタ作ろう」

 彼は、誰もいない部屋に向かってそう言ってから、立ち上がって、キッチンでパスタを作り始めたらしい。

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 ここには、独り言に対する既成概念を打ち破る事象が含まれている。すなわち、「独り言のことを他人に聞かせる」ということだ。彼が、その「『あ、パスタ作ろう』事件」のことをひとつの出来事として話してくれたからこそ、それを僕が知り得たのである。しかも、ちょっと笑った。

 これは、革命だ。何の価値もないと思われた独り言が会話のメインストリームに踊り出ており、しかも、ちょっとおもしろい。なぜなら、独り言のことを他人に話しているからである。おもしろいに決まっている。

 独り言という無機物に生命を吹き込み、さらに、おもしろいという最もポジティブな効能まで身に付けされた者の功績は偉大である。


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