風邪と飴

 中学生の頃のことだ。
 朝、家を出る前に、母親が僕の風邪の初期症状に気付いた。

 「ちょっと待ちなさい。いいものがあるから」と、母親は台所へ消えていき、しばらくすると、その手に数個の飴を携えて僕の前に姿を現した。

 母親の話によると、それは「生姜飴」というものであり、風邪に効くという。僕はその飴をガクランのポケットに入れて家を出た。玄関の前では友人が待っていた。

 登校途中で思い出した。ポケットを探り、それを出した。

 「これ、なんか生姜飴っていうらしいよ。風邪に効くんだってさ」

 「ふーん」

 僕は包み紙から解き放ち、橙色透明のそれを口に入れた。

 すぐにわかった。

 「まずい」

 なんだかわからないが、とにかくまずい。「生姜飴」という名称は付いているらしいが、何の味だかよくわからない。口の中が何か悪意のようなもので渦巻いている。口に入れるべきものではないことは確かだ。

 ポケットの中には、もうひとつ同じものがあった。

 「これ、食べてみろって。まずいから」

 「いや。いらない」

 「いいから」

 結局、彼は風邪をひいていないにも関わらず、その飴を食べることとなった。

 「まずい」

 やはりそうだったらしい。しかし、悲劇はこれだけにとどまらない。
 しばらく経って彼は言った。

 「頭が痛い」

 かなり深刻に訴えていた。

 風邪を治したくても、生姜飴だけは買わないほうがいい。悪質な副作用を併発する可能性を秘めている上に、口にしたとしてもすぐに吐き出される運命にあるからである。


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