スカートが好きなのだ。
そう言うと大抵のへそ曲がりは「じゃあ、履けばいいじゃん」とか言ってくるのだが、そういうことではないのである。スカートを履いている女の人が好きなのだ。もっと正確に言うならば、女の人に履かれているそのスカートが好きなのだ。
丈は膝より上で、チェック柄で、ひらひらしているものがいい。わかりやすく言えば、学校の制服みたいなやつだ。なんだかわからないが、それが好きなのだった。
ただ、そのスカートの下にレギンスだのジーンズだのを履くということは、僕からしてみれば愚行にしか思えないし、全く理解ができない。せっかくのスカートなのに、それじゃ何の意味もないじゃないか。
今の店に赴任して間もなく気付いたのは、まさに僕が憧れ、恋焦がれていた姿をして出勤してくる人がいるということだった。
朝、僕が喫煙所でタバコを吸っていると、彼女が出勤してくるというのが通例だった。それは冬だったが、スカートの下に邪道なものを身に付けることなく、朗々と「おはようございます」と言い放ち、更衣室へと消えて行くのだった。彼女は毎日スカートを履いていた。挨拶くらいしか交わすことはなかったが、僕の中で彼女は「スカートの人」という確固たる地位を築いていた。
それは春が訪れた頃のこと、その「スカートの人」に手紙を貰った。その頃には少しは話すようにはなっていたものの、それはあまりにも突然だった。「仲良くしてください」と、連絡先が書かれていた。
失礼かと思って当日中にメールはしたものの、あまり乗り気ではなかった。なぜなら僕はスカートが好きなのであって、彼女に対しては何とも思っていなかったからだ。加えて、ちょっとおかしな人だという噂も耳に入っていた。
かなり頻繁に一緒に遊ぼうと誘われたが、「ああ、そうだね」と言っておきながら、曖昧にしたままだった。これだからイエスマンは困る。
梅雨が明け、彼女は家に来た。なぜそうしたのか自分でもよくわからないのだが、とにかく彼女はうちにあがった。もちろん、スカートを履いていた。
部屋に入るなり彼女は、水槽を興味深くしげしげと眺めた。「なんかこのカエル普通じゃないですよね」と繰り返した。普通のカエルって何だね。アマガエルだけがカエルだと思ったら大間違いだ。「カエルが何か話しかけてきてるよ、ほら」とわけのわからないことを言っていた。
彼女はよく喋った。僕はそんなに喋る人ではないので、大いに助かった。時に会話が噛み合っていなかったような気もするが、気にならなかった。少し妄想癖があるようだった。
彼女はスカートを履いたまま雑に座っていたので、下着が見えそうだった。言っておくが、僕はそういう邪な期待のためにスカートを愛でているわけではないのである。そういうことじゃなくて、スカート自体が好きなのだ。先に、下にレギンスを履くのは邪道だとか何とか言ったが、それはスカートのかわいらしさを際立たせるための重要な要素だということだ。
従って、実際に下着がちらりと見えたわけだが、それはいわゆる事故であって、見るべくして見たのではなく、たまたま偶発的に視界に入ってきただけのことだ、というのは嘘である。Peach Johnに置いていそうなかわいいやつだったが、それが何だというんだ。なぜならスカートが好きだからである。
夜も更け、彼女は帰っていった。僕はひとりいつもの部屋に取り残され、酒を飲みながら、彼女と話すのはなかなか楽しいひとときだったななどと考えながら、少しのさみしささえ感じた。また会って話せるのかなと思った。
だが、それは勘違いなのだろう。なぜなら、僕は彼女に履かれているそのスカートが好きだからである。