スパコン

 傍らに置かれていた新聞をちらりと何気なく見たところ、こんな文章が目に付いた。読売新聞の一面に書かれていた記事の一部だ。

 「地球シミュレータは、最もパワフルなスパコンの一つだ。複雑な地球システム・モデルを高解像度で作動させてくれるだろう。エキサイティングな計画だ」

 ここで気になったのは「スパコン」という言葉だ。それは何だろうという思いに頭が支配された。記事をよく読んでみてわかったが、「スパコン」とは「スーパーコンピューター」の略らしい。確かにそう聞けば納得できる。「スーコン」や「スピューター」よりは、「スパコン」と略すのが妥当だろう。
 しかし、「スパコン」には、コンピューターとは程遠い響きが感じられて仕方ないのだ。「コン」と聞けば、「パソコン」という言葉と結びつけてコンピューターがすぐに連想されてもおかしくはないはずなのだが、その発想を押さえ付ける力が「スパコン」にはある。

 言うまでもない、「スパ」だ。そして、この言葉と「コン」とのコラボレーションは、我々を思いもしない場所へ連れ去るようである。それは「スーパーコンピューター」の存在する位置とは全く逆の方向に作用する力にも思える。
 人はなぜか「スパコン」という言葉から、尋常ならざる回数のうさぎ跳びや、全身の筋肉を鍛えるための養成ギプスや、頑固親父がちゃぶ台をひっくり返すシーンが頭に浮かんでしまうのではないか。そういった感じの要素が「スパコン」にはある。

 そして、僕はわかったのだ。

 卓越した専門技術者が構築した「スーパーコンピューター」が、略語で呼ばれた途端に、汗にまみれた雰囲気を醸し出すのは、きっと「スポ根」のせいだ。「スポ根」のインパクトは絶大である。それは、字面だけでなく、その内容もだ。それゆえ、全く関係のない理知的な分野である「スパコン」について考える者に影響を与えるほどだ。
 呼びやすくするために「スパコン」と略することで、その実態が最先端技術であるにも関わらず、何か時代遅れで無骨な感じがしてしまうのは皮肉なことだと思うのだ。


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