びっくりマーク!エクスクラメーションマーク!のやや間違った使い方
ああ、昨日は夏、今は秋!
「!」のことを「エクスクラメーションマーク」というのである。これは日本語にはもともとなかったものだが、いつ頃かは知らないが海外から輸入され、現在ではすっかり定着している。一般的には「びっくりマーク」と呼ばれている。
使い方はというと、主に二種類あるように思える。つまり、「感嘆」と「強調」である。例えば前者は、「ばかやろう!」であり、後者は、「激安!」である。「ばかやろう」よりも「ばかやろう!」のほうがより「ばかやろう感」が出るし、「激安」よりも「激安!」のほうがより叩き売りされたバナナっぽいなと感じるのではないだろうか。
我々の周りに「!」は溢れ返っており、それによって感情を豊かに表現することを得、また、無意識のうちにその効果に踊らされているとも言える。
高校時代の国語(現代文)の教科書に、ボードレールの詩が載っていた。ボードレールとは『悪の華』という詩集が特に有名なフランスの人物だが、教科書に掲載されていた「秋の歌」(『悪の華』収録)という詩にはこうあった。以下は一部の引用である。誰が訳したのかはわからない。
「この単調な振動に揺すぶられているうちに
どこかで棺が、釘に打たれているのかと
誰のために? ああ、昨日は夏、今は秋!
この神秘的な物音は門出のように鳴りわたる」
この「!」の使い方に驚いたのだ。唐突に「今は秋!」と言われても、どうしたらいいのかわからなかった。そこに漂う不自然さが気になって仕方がなかったのだ。
「もう学校始まるのか?」
「ええ、来週から。宿題全然やってないって、今、部屋に缶詰めになってやってますよ」
「俺もそうだったから、何とも言えないな」
「そうそう。だから怒るに怒れないっていうか」
「これ、なかなか美味しいな」
「もうすいかって気分でもないかと思ってね。安くなってたから買ってみたの。いけるでしょ、そろそろ柿も」
「確かに、すいかって気分じゃないな。好きなんだけどな」
「今日なんか、もう涼しいくらいだったわね。来週からはこんな調子だって」
「へぇー。ああ、昨日は夏、今は秋!」
「え?」
やはり、「今は秋!」などと突然言われたら、不自然である。妻の「え?」という気持ちもよくわかる。
この不自然さは、口語の中で、名詞に「!」が付いているからであると推測される。我々が口から言葉を放つ中で、こうした事態は殆どない。階段でつまずいたからといって「階段!」と叫ぶことはないし、家に帰ってみたらテレビが新しくなっていたからといって「テレビ!」と声を大にして言うこともあまりない。まして、「昨日まで夏だったのに、もう秋か」という意味を込めて、「昨日は夏、今は秋!」と話すことは決してないだろう。
仮にそういう人がいたら、どうなるだろうか。
「今帰宅!」
「おかえりなさい。お風呂にします? ご飯?」
「風呂!」
「沸かしておいたから、すぐに入れますよ」
「感謝!」
「今日はずいぶん寒かったでしょう」
「昨日はあんなに温暖!」
「はい、着替え。ごゆっくり。今日はあなたの好きなキーマカレーですよ」
「いいにおいがしたから、そうじゃないかと推測! まじで嬉々!」
「いつもお仕事がんばってもらってますからね」
「愛!」
「私も愛してるわ」
なんとなく逆にしてみたのが下記である。
「ただいまー」
「帰宅! お風呂かご飯!」
「お風呂にしようかな」
「即入浴可!」
「ありがとう」
「今日はずいぶん寒冷!」
「昨日はあんなに暖かかったのにね」
「これが着替え! 安息! 今日はあなたの好きなキーマカレー!」
「いいにおいがしたから、そうじゃないかと思ったんだ。嬉しいよ」
「いつもあなたわたしのために仕事に尽力!」
「愛してるよ」
「愛!」
なんだこれは。